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阿吽(あうん)

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寺院の山門の仁王像や、神社の社殿前の狛犬などは、一対で片方が口を開け、もう片方が口を閉じるいわゆる阿吽の形を取っています。浄土真宗の寺院では、それらは見かけませんが、いろいろな所で阿吽の形をした動物?たちを見つけることができます。例えば、向拝(ごはい…寺院の正面階段下辺りで、履き物を履いたまま礼拝できる空間)にある左右一対の柱の上を見てみますと像鼻(ぞうばな)と言って像の頭の彫刻がよくあり阿吽の口形をしています。お内陣の中央にあるお宮殿(くうでん)も、柱の上には獅子や像の彫刻があり、それらも阿吽の口形をしています。前卓(まえじょく)の上にある蠟燭立の中程の鶴の飾りも、一対の鶴が阿吽の口形をしています。また、前卓の両袖の龍の彫り物、礼盤(らいばん)の磬台(けいだい)の裏表にある鳳凰の彫刻等、およそ一対であるものは皆阿吽の口形をしています。

この阿吽について
    「阿」は開口の発音、「吽」は閉口の発音で、それぞれ発音表における最初と最後に位置し、一切の言語、音声はこの二音に帰するとして、一切諸法の始めと終わり、あるいは菩提と涅槃、あるいは理と智などに当て、この二音に包括されないものはないとして、一切諸法を意味するものと考えられた。〈図説仏教語大辞典(中村元著)〉
    阿吽の二字出息と入息との意に解し、衆生に本来具わっている自らのさとりと他をさとらせるはたらきとにあてる説もある。〈総合仏教大辞典(法蔵館)〉
    とあります。

どうやら阿吽は、とても不思議な、少し神秘的な言葉であるようです。この阿吽は、中国で翻訳された言葉で、そのルーツは唵(オーム)といわれています。唵はヒンドゥー教などで神聖な言葉として、祈祷の前後に唱えられています。日本の密教でも、唵で始まる真言や聲明も珍しくなく、唵字を観ずることで阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい…無上の正覚)を成ずることが出来ると説かれます。 図説仏教語大辞典では、阿吽は開口閉口の発音であると解説されていましたが、それは原初的で最も単純な言語とも言えます。

ところで、お念佛「南無阿弥陀仏」は、「なも」「あみ」「だぶ」と発音(連続して唱える場合は「仏」の「つ」の発音は省略されます)しますが、どれも開口閉口をします。つまり、「な:開口 も:閉口」「あ:開口 み:閉口」「だ:開口 ぶ:閉口」となり、これは阿吽の連続でできているということができます。お念佛「南無阿弥陀仏」は阿吽で仕立てられていたのです。臨終の間際の人が、吐く息、吸う息の中で、そのままその息に合わせ「なも、あみ、だぶ」と唱えられるように、阿弥陀如来はそこまで私たちのことを知り抜いて「南無阿弥陀仏」を成就されたのでありました。お念佛には、「帰命尋十方無碍光如来」や「南無不可思議光如来」もありますが、それらでは、臨終の間際の人にはとても唱えにくい言葉となってしまいます。しかし「南無阿弥陀仏」であれば、いつでも、どこでも、どんな時でも唱えやすい言葉となります。しかも阿吽でできた「南無阿弥陀仏」は、その意味からも、その発音からも、無上の正覚(悟り)を成ずる言葉であったのです。  

          前卓両袖彫り物 龍の阿吽