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打敷(うちしき)

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打敷とは、お寺の内陣やお仏壇の中の前卓(まえじょく=各尊前の机)や上卓(うわじょく=阿弥陀如来前の須弥壇上にある机)等にお掛けする、金襴や刺繍などでできた三角形状の上掛けのことをいいます。この打敷は、平生には掛けず、法要などがある場合にお掛けすることが本来で、ご本山(西本願寺)でも春秋の彼岸会や、報恩講、降誕会などご法要がお勤まりになるとき立派な打敷が掛けられます。
この打敷の起源は、真宗大辞典等によると、お釈迦様御在世の時代まで遡ります。その有様を示す教典には、「種々の天の妙服衣を以てその座上に敷く」や「無量の宝を以て、周匝細飾(しゅそうさいじき)し天の妙衣を以てその上に敷く」などと説かれ、お釈迦様がお説法される高座を、珍宝や妙衣で荘厳したことが知れ、おそらくこれが打敷の起源であろうといわれているのであります。
ここに「天の妙衣」とありますが、これから思いつく記述が『無量寿経』の中に出てきます。それは『無量寿経 巻下』の『東方偈』の中にある 「一切のもろもろの菩薩、おのおの天の妙華・宝香・無価(むげ)の衣を齎(も)つて、無量覚を供養したてまつる。」であります。この一段は、十方仏国にいらっしゃる菩薩様が阿弥陀如来のみもとへやってこられ、その極楽世界の微妙にして思議を超えた荘厳を観て、我が国土もこのようにありたいと願われるところで、菩薩様はその阿弥陀如来に対して、うるわしい花と、かぐわしい香と、何物にも代えがたい尊い衣をささげて、供養されるのでありました。ここに、「無価の衣」つまり「何物にも代えがたい尊い衣」と出てきます。これはそもそもお浄土での表現ですから、それを私達の人間の世界の価値で推し量ることは無理ではあるのですが、あえて私達の身近なところで考えてみますと、ご門信徒の皆様のご懇念で出来上がった衣とでも表現できましょうか。法衣店に並ぶ衣の製品としての価値ではなく、人々の深い思いのこもった浄財で購入した衣の価値をあらわしている言葉と受けとめることが出来るのではないでしょうか。釈尊御在世の時、托鉢にて頂戴された布を縫い合わせ作られた衣が、やがて現在のような高価な金襴の袈裟衣へと変遷してゆくわけでありますが、その製品的価値ではなく、人々の布施行によりできたものという意味で「無価の衣」といえるのではないかと思うのであります。

話しは打敷に戻りまして、亡くなった方の衣服類の遺品を寺院に寄付をして打敷にしていたという記述が『実悟記(75)』(蓮如上人時代の故実を記したもの)に出てきます。蓮如上人の時代から、「無価の衣」が打敷として仏前の荘厳に使われていたことが知れるのであります。
先にも記しましたように、打敷は常時お掛けするものではなく、法要の時など特に丁寧におつとめすべき時にお掛けします。その法要の軽重によっても打敷の種類を替えることもあります。また今は夏の時期、衣も冬用の厚手の生地のものから、夏用の「紗」や「呂」などの薄手のものに衣替えするのと同様に、打敷も夏用の衣替えをします。お説法されるお釈迦様のみもとをお飾りしたいと思った仏弟子達の願いに思いを巡らし、仏祖の尊前をお飾りするよろこびを大切にしたいものです。