季節のお荘厳

鶴亀

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浄土真宗のお荘厳の一つに、三具足(みつぐそく)があります。三具足とは、香炉、花瓶、蠟燭立の3種の仏具を指し、それぞれ香、華、灯をお供えする荘厳具(供養具)であります。この三具足の中でこの度は、蠟燭立に注目してみたいと思います。浄土真宗各派のお荘厳はそれぞれ独自色が有り、この蠟燭立にも違いがあります。大谷派、高田派、仏光寺派の蠟燭立は通称「鶴亀」と言って、真鍮または唐金製で、下方の亀の上に鶴が立ち、くちばしに蓮の茎を銜えた形をしています。本願寺派や上記以外の各派の三具足には、宣徳(せんとく)と言って漆を焼き付けた塗装が施してあり色が茶系となり蠟燭立はその形状が大きく違っています。しかし、少々分かりにくいですがやはり「鶴」と「亀」の姿を見つけることが出来ます。 そして蠟燭立の中央あたりにある二つの「鶴」は阿吽の口形をしています。

さて、何時頃から「鶴亀」なのでしょうか。安永3年(1774年)に京都慶証寺の玄智が著した『考信録』には次のように書かれています。

「鶴亀の蠟燭台本は世間の調度にて、室町家の時まで祝言の床かざりに用いし事、池ノ坊の大巻(おおまき)にみゆとかや。何の頃よりか仏前に供養せし例となり。今は仏具にかぎるようになり。唐にして道家の荘厳なりしと云人あれど信じがたし。」

これによりますと、鶴亀の蠟燭立は、元は調度品であったものが何時の頃からか仏具となったとして、その時期は定かではないとされています。また、一説には親鸞聖人が九条兼実公の婿になられたとき、そのお祝いとして九条家より六角堂に一対の立花に鶴亀の燭台を贈らえれたと言われていますが、宗祖が九条兼実公の婿になられた事実はなく、この説を鵜呑みには出来ませんが、玄智の『考信録』にも池ノ坊との関わりが記されていますので、その歴史は宗祖の時代まで遡れるのかも知れません。

次に、何故長寿を願う意味のある「鶴亀」を、浄土真宗の荘厳具に用いたのでしょうか。西原芳俊著『真宗事物の解説』には、二つの理由が示されています。

「先ず真宗に於いて、仏具としてこれを用うる事あるは、鶴亀よく、延命長寿を表象す所為あればそ、ことさらにこれを愛用するに至ったのである。
世上にて、長寿の王たる、鶴は千年、亀は万年を経ればみな死すなれども、我ら念仏者はこれらに勝り、限りのなき無量寿の生命を得る事よと、鶴亀の燭台を見るにつけても法味愛楽の資糧となし得るのであるが、このためにこれを用うるのである。(是一)

また、鶴の足は特に長きもの、亀の足は特に短きもの、しかれども長短いずれも自性なれば、長きを切るに及ばず、短きも足すに及ばず、ともにその特徴個性こそ尊重せらるるの所為である。蓋し、我ら凡夫、善悪賢愚の別あれども、持ち前の自性のままにて万機普益、五乗斉入、あまねく助け給う如来本願力のかたじけなさよと鶴亀を見るにつけても思い出し、法悦の助縁となし得らるる所以あればこれを用うるのである。(是二)」

浄土真宗の教義から言えば少々疑問が残る伝統文化であっても、それを否定せず、それを取り込み浄土真宗としての新たな意味を与えていかれた先人の智慧が偲ばれます。