御本山では5月15日からお盆の8月15日までの93日間、正午より『夏の御文章』が拝読されます。『御文章』とは、本願寺第8代蓮如上人が浄土真宗の安心の要や、念仏者としてのたしなみを分かりやすい言葉で記し、各地のご門弟に送られたもので、同9代実如上人がそれらを編纂され、五帖八十通にまとめられました。それ以外に、ご本山でのみ拝読される五通すなわち、御正忌における『御俗姓』一通と、夏安居の時節に拝読される『夏の御文章』四通とがあります。その四通(後に第四通を2つに分け五通とされる)からなる『夏の御文章』は、蓮如上人が最晩年の84歳の時に著されたもので、兵庫県西宮市名塩の教行寺様に伝わる実悟写本には、第1通と第2通は5月下旬、第3通は6月下旬、第4通は7月下旬と著述された時期が記されており、この夏安居に際して著述されたものと窺われます。
さて、その内容は…。
「これほどに毎日耳ぢかに聖教のなかをえらびいだしまうし候へども、つれなく御わたり候ふこと、まことに事のたとへに鹿の角を蜂のさしたるやうにみなみなおぼしめし候ふあひだ、千万千万勿体なく候ふ」(第四通より)
「この夏のはじめよりすでに百日のあひだ、かたのごとく安心のおもむき申し候ふといへども、まことに御こころにおもひいれられ候ふすがたもさのみみえたまひ候はずおぼえ候ふ」(第五通より)
蓮如上人が、浄土真宗の要であるご安心について懇ろにご教授されても、「鹿の角を蜂のさしたるやう」(鹿の角に蜂が刺しても鹿は痛くもかゆくもないように)と、いっこうに反応がなく、伝わらないことへの蓮如上人のもどかしさが記されています。さて、このことは500年前のこととしてではなく、今の私に向けられている厳しいお言葉として、謹んで頂戴すべきでありましょう。
今の時期ご本山で正午より拝読されている『夏の御文章』は、晨朝の『御文章』とは違ってさらさらと流れるように拝読されます。是非お聴聞下さい。
2014年6月23日